車いすによる城郭訪問についての回答
◎インタビュー内容
1.城郭の訪問について
・訪問する城郭の選定条件はどのようなことがあるか。
(回答)
訪れる城郭の選定は城めぐり自体を旅の目的とする場合もあれば、駅がバリアフリー化されたからその駅近くの城跡にいってみる、他の観光地に行き近くにあるから訪れてみるなど、さまざまな動機や経過から訪問しています。
・訪問する際の同行者の有無や交通手段について
(回答)
同行者も車椅子利用者である場合、健常者と訪れ介助をしてもらえる場合、単独で行動するなどさまざま。日帰りの場合は簡易電動車椅子、宿泊する場合は手動車椅子を使用しています。これはバッテリーが一日しかもたないためです。
交通手段は電車・車椅子対応路線バス・自家用車・タクシーなどさまざま。三原城や福山城は名古屋城などへは電車で行きましたし、会津若松城・伊賀上野城などへは電車とリフト付き路線バスで、江戸城や久保田城は宿泊地の近くであったので手動車椅子で出かけています。
同行者とはいえないのですが坂を上っていると何人かの人が助けてくださることがあります、しかしすべての坂を押していただけるというのはもともと無理な話で、お礼を述べてまた坂を上がっていくと
他の方が介助にきていただいたりと、有名な城跡で観光客が多いところだといろいろな方が助けにきてくださいます。特にカップルでこられている方は親切です。
・事前の情報収集
事前に調べておくこと。調べる方法。
(施設やバリアフリーについて,城郭までのアクセスについて,その他(歴史など))
施設への事前の問い合わせの有無とその内容。
(回答)
お城の航空写真の載っているガイドブック等で自動車がどの位置に入っているかを調べます。自動車が入れる位置までならば、階段にはばまれることなく行けるからです。あと地図などである程度の検討はつけていますが、本当のことは行ってみてからわかること、歴史は城の案内板などをみてはじめて知ることも多くあります。
事前に施設に問い合わせたのは上山城(山形県)のみです。
2.城郭内のバリア及びバリアフリー整備について
・これまで訪れた中で阻まれることの多い場所はどのようなところか。またその形状は。
(回答)
最も登城をあきらめさせるものは坂道そして凸凹道。浜松城は天守の下まであとわずか、というところで勾配がきつくなり転倒する危険が出てきたので断念、犬山城は道路の傾斜と凹凸が激しくパンクや転倒の恐れがでてきたのであきらめました。たぶんどちらの城も天守には階段があり登れなかったでしょうが。
次に天守閣や櫓への階段、熊本城・福山城・丸岡城などは天守閣のすぐ近くまでたどり着けたのですが天守閣内部は階段を上れなければはいることができませんでした。広島城は本丸内に段差があり天守に近づけませんでした。
・よく見かけるバリアフリー整備はどのようなものか(仮設・常設,形状,段差の大きさ,場所など)。
(回答)
車椅子トイレは意外と設置されているところが多くあります。石垣を越える形で天守や櫓に入れるエレベーターは大阪城・名古屋城・天守閣ではないのですが彦根城の復興櫓の開国記念館など、スロープやリフトで天守閣内部に入りエレベーターを利用できるところとして富山城・長浜城など、私自身は利用できないのですがイス座るタイプの昇降機があるのは小倉城・首里城・池田城などです。城門などに仮設のスロープ通路があるところは福井城、会津若松城など多数があります。
・車いすの利用上、好ましいバリアフリー整備はどのようなものか。
(最低限の整備〜最適なバリアフリー整備:段階的に教えてください)
(回答)
(1) 砂利道であっても一部舗装された部分があること
(2) 城門に仮設のスロープ板が設けられていること
(3) できるだけ城内の低い所に資料館や文化財を展示した資料館などがあること
(4) 資料館等が復興櫓や復興御殿内につくられていること。
(5) 復興天守等は石垣を超えるエレベーターと内部のエレベーターが設置されていること
・城郭を訪れる際に必要な施設はどのようなものか。(トイレ,休憩場所など)
(回答)
(1)車椅子・オストメイトフル対応規格トイレをもうけていただきたい
(2)エレベーターのある櫓など車椅子で入れる場所があるのなら案内表示をしてほしい。
久保田城(秋田市)では櫓が車椅子でも入れそうだと訪問したあとに分りました(未確認)
・城郭と他の施設との違いはどのようなところにあるか。
(回答)
城は基本的に敵に攻められたときの防御施設であり、意図的に入るのが困難なように造られています
健常者であっても、注意していないと急な階段で転んだり、鴨居に頭をぶつけてしまったりするようにつくられています。つまり最初からバリア・フルにつくられているのが城郭建築物なのだと思います。
・係員の対応について評価できること。配慮してほしいこと。
(回答)
車椅子でゆける範囲のところから声が届くところにいていただくと助かります。また熊本城では「天守閣は入れないが、本丸御殿には入れますよ」といったアドバイスをいただき、城めぐりの旅を楽しむことができました。そういう情報をいただけると助かります。ちなみに私のホームページの写真のいくつかはお城の係員の方に写してもらったものです。江戸城本丸跡(東御苑)で警備の警察官の方に撮影を依頼したところ「私も映されていますので」と断わられました。ここは現役のお城なんだと思いました。
・観光客の対応について評価できること。配慮してほしいこと。
(回答)
私は車椅子で坂を上っている所を押してもらったり、砂利道から助け出してもらったりという経験ばかりですので有難く思っています。スロープを押すのと、階段を担ぎ上げるのでは負担が全く違いますので、介助者自身の身体を痛めてしまわれては何にもなりませんので、無理して介助はしないようにお願いします、こちらも行ける所までという気持ちで巡っていますので。
3.様々な城郭を訪れて
・最も好きな城郭とその理由。
(回答)
二条城の二の丸御殿は入り口にはスロープ、敷居にななめに切った板が渡してあり、車椅子でも移動のやすいものでした。なんといっても「大政奉還」のあった現存する本物の建物です。
・訪問して最も楽しめた城郭とその理由。
(回答)
名古屋城はエレベーターの完備した地下鉄の駅から近く路面の舗装が舗装されておりしかも平坦に、石垣を超えるエレベーターと天守閣内部のエレベーターを利用できること、最上階にこそ上がれませんでしたが内部の展示も江戸時代を再現した街並みなどがあり、気軽に楽しめました。大阪城は最上階までエレベーターで上がれるものの、そこまでの広大な敷地に坂があったりと、手動車椅子だと疲れてしまいます。
・これまで訪れた城郭は全体順路(入口から天守閣まで)の何割程度登城できたと感じているか。
(登城割合の高さによる順位:大阪城:100%など)
(回答)
先ほど述べたようにかならずしも城の行きやすさと同じとはいえないのですが天守閣の登城割合の高さによる順位という考え方から評価すると。
100% 大阪城 上山城
天守閣と言えるかどうか問題はありますが勝龍寺城(京都府)
80% 名古屋城
60% 長浜城 富山城(展望階への階段をどのようにカウントするかにより変わります)
50% 首里城 池田城 (両方の城にイスに乗り移る昇降機があったが、私は利用できなかったため点数が低くなってしまいました。)
10% 清州城
・一般的な施設や公共交通のバリアフリー整備と文化的価値の高い城郭のバリアフリー整備にはどのような違いがあると感じているか。
(回答)先にも述べたように城は本来入りにくく造られているたてものです、それを無理にバリアフリー化しようとすると当然文化財としての価値は下がることになります。しかし復元や復興や模擬天守となれば話は別です。エレベーターを完備している大阪城復興天守閣に文化財的価値が認められるようになった例もあります。また一般的な施設や公共の建物や公共施設は現在もつかわれているもので歩行弱者もそこに行く必要がありますが、城は当初の役割を終えたものであり、車椅子利用者自身も他の施設に比べれば必要性を感じていない方が多く最後に残るバリア・フルな建物だと思います。
4.今後の希望や課題について
・文化財を保全しつつ、バリアフリー整備をどのように(程度,内容,場所)で行ってほしいか。
(回答)
現存の文化財を壊してでもバリアフリー化を進めるのは私は無理があると思います。しかし
そのような城でも意外と復元された櫓や御殿跡があったりします。姫路城・好古園や彦根城の復興櫓につくられた開国記念館などの例もありますので、車椅子利用者でも楽しめる部分を整備することは可能だと思います。また姫路城の修理のためにエレベーターが設置されることになりましたがこれが工事終了後にどのような論議になるのか注目しています。
・バリアフリー整備を行う際、どのようなことに配慮したほうがよいか。
(車いす利用者の参加,人的介助の検討,など)
(回答)
キャタピラ昇降機で石段を上るといった対応は避けていただきたく思います。整然と並んだ駅の階段ですら転倒し怪我をした仲間の話を多く聞いていますので。それと城の状況によって異なりますが、スロープは目立たないように(首里城に正面からは全く気にならない隠しスロープがありました)していただければと思います。車椅子利用者が参加することは重要ですが、違和感を持たずにいつの間にかエレベーターが設置されていた(彦根城の開国記念館)というのが理想です。非常に難しいことですがデザイン的な能力のある方も参加されるのが良いと思います。
・車いすの方が城郭を訪れようとするとき、どのようなことが重要か。
(回答)
城郭にかぎらず、どこに行くのでもそうですが自分の運動能力を知っていることが大切です。そして行ったら必ず帰ってくるときのことも考えて行動することです。登山で登頂に成功しても、下山途中に遭難してしまったらなんにもならないのと同じです。意外に上る時よりも下る方が難しいものです。
・バリアフリー整備に代わる代替手段としてどのようなことが考えられるか。
(回答)
平城・山城など城の形体によってもことなりますが、展示物を天守に集めてしまうのではなく山麓に資料館などをつくる方法があると思います。出来れば御殿や櫓の再建時に検討いただければ幸いです。
平成22年に作成したレポートを加筆・修正しました。現在では状況の変わっている城郭もあると思います。